和田烏江『異説まちまち』巻之二より

関東与一

 昔、関東与一という怪力の相撲とりがいた。
 ある大名の屋敷で、その家お抱えの羽衣という力士と試合をしたところ、羽衣の巧みなわざにあって、与一は負けてしまった。
 与一は涙を流して悔しがり、もう一度と願い出て、また取り組んだ。

 今度は羽衣の胸に与一が頭を差し込み、しばらく揉み合っていたが、やがて羽衣の顔が蒼白となり、体が震えはじめた。
「もろいやつめ!」
 与一がそう言って投げ飛ばしたのを見ると、羽衣はもう絶息して死んでいた。
 主人の大名が怒って犬をけしかけたが、与一はそれを捕らえて引き裂き、ただちにその場を逐電した。
あやしい古典文学 No.466