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建部綾足『折々草』春の部「鶯の巣に時鳥の子持たるを見し条」より |
鶯の卵の中の時鳥 |
江戸の高橋というところに、さる貴人の別荘がある。そこの留守居をする人が語った話だ。 三月の末、庭の木々の深みにウグイスがさかんに行き通うので調べてみると、巣をかけていたのだった。『これはいい。雛をとって飼おう』と思って、気にかけながら待っていた。 ある日のこと、ホトトギスが一羽鳴きながら飛んできて、巣の辺りをうかがった。 隠れて見ていると、ウグイスが餌とりに出て居ないのをいいことに、ホトトギスは心のままに巣をのぞき見て、卵が四五個あったのをくちばしに咥え、次々に呑み込んでしまった。 『悪い奴だなあ』と思いつつなおも見まもっていると、しばらくして今度は口から、たいそう赤い卵を一つ、巣に吐き入れて飛び去った。 これこそ歌に詠まれた『鶯の卵(かいこ)の中の時鳥』ではないか。この先どうなっていくのだろうと、以後は興味津々でなりゆきに注目した。 月末になり、ピピ…と鳴く声がして卵が孵った。ウグイスは巣に通ってホトトギスの雛を養う様子である。 四月初旬のうちに雛の体が大いに成長して、もはや巣からはみだし、足だけ巣に入れて立っていた。 ウグイスは、育ての親よりはるかに大きくなった雛をたいそういとおしんで、小さい虫などを咥えて運んでくる。ところが雛が大きな翼を広げ、長いくちばしをあけて餌を食おうとすると、ウグイスは自分の頭が口の中に入って呑まれそうになる。 それで少し怖くなったのだろうか、自分は巣の上の枝に止まって、餌を落として食わせはじめた。 だんだん雛が巣を這い出るころになると、ウグイスは先に木伝いをして習わせるようになった。 羽も長くなって、もうすぐ飛んで行ってしまうだろうと思ったので、ここでホトトギスの雛をとって、飼うことにしたのだそうだ。 |
あやしい古典文学 No.475 |
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