佐藤成裕『中陵漫録』巻之十一「魄降于地」より

魄は地に降る

 かつて聞いたことがある。
 人が縊死した場所で、また別の者が縊死したことがあった。ある人がそこの地面を掘って黒い塊を取り出し、焼き捨てたという。

 時珍は『本草綱目』に記している。
「縊死の人の下には、麩炭に似た物がある。縊死の後、ただちに掘らねばならない。遅れると地中深く入ってしまう。これを取り捨てないと必ず、再びその場で縊死する者が出るであろう。
 そもそも人は、陰陽の二気を受けて形を成したものだ。魂魄(こんぱく)があつまって生まれ、散り去って死ぬ。死すれば魂は天に昇り、魄は地に降りる。魄は陰に属し、その精は沈淪する。
 すなわち縊死の後、魄が地に入って物と化すのだ。それは星が流れ落ちて石となり、虎が死んで地に堕ちた眼光が白石と化し、人血が地に入って燐となり碧となるのと同様のことである。」
あやしい古典文学 No.483