『諸国百物語』巻之四「大野道観怪をみてあやしまざる事」より

怪しまない人

 大野道観という人がいた。
 あるとき狩りに出かけて、山中の道を歩いて行くと、道観が通ったあとに唐傘ほどの松茸が一本生え出た。
 従者たちが不思議に思って告げると、道観は振り返り、
「別に不思議なことではない。こんな大きな松茸もあるものだ。もしこれが逆さまに生えていたら、不思議だろうよ」
と言った。
 さらに道を行ったところ、今度は前方に、さっきの松茸が逆さまに生えていた。
 従者たちがいよいよ驚くのに対して、道観は、
「わしがさっきケチをつけたせいで逆さまに生えたのだから、これも不思議ではない」
と平然としていた。

 翌年の元日には、道観の屋敷で、炉の内にある金輪が跳び出て、座敷を踊りまわった。
 小姓たちはうろたえて道観に知らせたが、
「人は足二本でさえ歩くのだ。足が三本ある金輪なら、踊り歩いても不思議でない」
と言って、いっこうに気にかけなかった。
 しかし、その年の夏、道観の一人娘が亡くなった。後に思えば、一連の怪異はその凶兆だったのではなかろうか。
あやしい古典文学 No.489