山本序周 編『絵本故事談』巻之一「甘蠅」より

甘蠅・飛衛

 ある説に言う。

 甘蠅(かんよう)は古代の弓の名人である。
 飛衛という者がこれに師事したが、弓の秘法を伝授されて後に背いて去った。
 甘蠅は急追し、河を隔てて対峙した。
 互いに矢を放つが、そのたびに河の中央で相当たり、矢は水に落ちて勝負を決しない。
 ついに甘蠅の矢が尽きたとき、飛衛にはまだ一本残っていた。
 飛衛、
「師よ、もはやこれまでだ。どこを射ようか」
 甘蠅は大口を開き、咽頭を指さす。
 飛衛が矢を放ってこれを射た。
 飛来する矢先を間一髪、甘蠅は噛み止め、その矢をもって飛衛を射殺した。
あやしい古典文学 No.495