『諸国百物語』巻之三「 慶長年中いがの国ばけ物の事」より

伊賀国ばけもの屋敷

 慶長のころ、伊賀の国のさる武士の屋敷で、不思議なことがあった。
 暮れ方になると玄関の前を、見知らぬ美しい女が練絹のかずきして歩いた。女の首が無くて、胴ばかりで歩くこともあった。
 ある時は、昼時分に台所の屋根の煙出しから、女と大坊主が覗き込んだ。
 また、痩せおとろえた女の四五人連れが、白帷子のざんばら髪で踊ることもあった。

 このように怪事が続いたため、ついに屋敷に住む人はいなくなった。
 今はそうしたことは起こらないが、昔の言い伝えがあるため、空屋敷のままである。
あやしい古典文学 No.498