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『天野政徳随筆』巻之一「雷化玉」より |
雷玉 |
陸奥出身の医師で、吉村耕民という人がいる。 この人がしばらく京の都に上って、医業を学んでいたときのことだ。 例年になく日々雷が鳴り轟いた夏、嵯峨野近辺の民家に落雷があった。 家の者は田畑に出ていて、聾者の老人が一人留守を守っていたところに、突然軒先に雷が落ちたわけだが、耳が聞こえないからさほど驚かなかった。 雲があたり一面に立ち覆っても恐ろしいとも思わず、縁側の隅にあった行水のたらいを持ち上げると、雷の落ちた上に素早くかぶせて、力いっぱい押さえ込んだ。 下から押し上げてくるのを懸命に押さえているうち、次第に雲が晴れ、雨もやんで、夕日がほのかに差してきた。おもむろにたらいを取り払ってみると、雷の気が凝り固まって一塊の玉と化していた。 大きさは手まりくらい、灰色で、石でもなければ金属でもない。手にとって透かすと、水晶玉に火焔を閉じ込めたようで、ぼんやり透き通った中に火の燃えるさまが見えた。 じつに珍しい玉だと、人々が群れをなして見物に訪れ、そのおり吉村氏も行ってじかに目にしたそうだ。 しかしその後、雷の鳴るたび、玉はしだいに重さを失っていった。 最後はどうなってしまったのか、わからないというのだが、そんなこともあるものだろうか。 |
あやしい古典文学 No.499 |
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