『大和怪異記』巻五「女、病中に鬼につかまるる事」より

病床の魔

 寛文四年のこと。
 美濃の国の麻生で、ある者の妻が病に臥していたが、その病床の周囲に何やら妖気がただよって、女子供などは昼間でも近づかなくなった。
 かろうじて夫だけが、脇差を傍らに置いて看病した。ほかには寄りつく人とてなかった。

 しだいに重く患い、とともに、いよいよ怖ろしさがただならぬ気配となったある夜、突如病人が、
「ああ〜っ」
と叫んだ。
 夫が走り寄って見ると、妻の左手が引き抜かれていた。
 その手は魔物が持ち去ったのか、どこにも見当たらなかった。

 ちょうどその時、裏庭の大竹十四本が、まるでささらみたいに割れひしげたという。
 これはいったい、どういうことなのか。
あやしい古典文学 No.503