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三坂春編『老媼茶話』巻之壱「石憲」より |
水中の群僧 |
中国の太原の商人に、石憲という者がいた。 長慶二年の夏、所用で雁門関へ向かったとき、暑さに疲れて大木の根方で休み、しばしまどろんで夢を見た。 ふと一人の僧が現れて、こう言うのだった。 「わが庵の南に、玄浴地といって、冷たい泉の湧くところがある。わしと一緒に行ってみないか」 石憲は僧とともに行った。 うっそうとした森の中に水をたたえた池があり、大勢の僧が水に浸かっている。このうえなく異様な光景だ。 「わしらの読経を聞きたくはないか」 その言葉にうなずくや、水中の僧たちは一斉に声をあげて経文を誦し、騒ぎ立てた。 かの僧は石憲の手を取り、池の中に導いた。水は凍るほど冷たかった。 驚いて目覚めたとき、彼の衣服はぐっしょり濡れていた。 翌日、行く手に池があって、蛙の鳴く声があたりじゅう響き渡っていた。周囲の様子は夢に見たままである。 池には蛙の大群がいた。そのさまは、まったくもって夢の僧たちと同じであった。 |
あやしい古典文学 No.507 |
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