松浦静山『甲子夜話』続編巻之九十九より

体内を廻るもの

 世の中には、理屈で解けないことがある。
 聞いた話では、ある女が誤って縫い針を足の裏で踏み、深く入ったうえ半ばで折れたため、抜けなくなったことがあった。
 はなはだ痛かったが、そのままにしておくより仕方なかった。
 その後、体の内のあちこちに疼痛が走る症状が数年続いた。
 ある時、肩の上に腫れ物ができてひどく痛んだので、医者にかかって膏薬を貼ったところ、膿をもち、次いで口が開いて膿汁が出た。
 膿汁の中に何か異物がある。よく見ると、かつて足の裏にたてた折れ針だった。
 これは足から入ったものが身中を廻り、最後に肩から出たわけだが、いかなる道理であろうか。

 また、わが抱えの相撲取りの弟子で、幼年のとき銭を口に入れて呑み込んでしまった者がいた。
 成長するにしたがい、その腕の皮膚の下に、むかし呑み込んだ銭の形がぼんやりと現れてきた。
 撫でてみると、たしかに銭がそこにあるのがわかったという。
 口から入ったものが腕の肉に移るものだろうか。不審な出来事である。

 さらにまた、長崎の人がこんなことを語った。
 先年、ある老人の肩に瘤が生じ、日を追って大きくなった。
 苦痛がひどいので外科に見せると、
「瘤を切って毒を除けば治るでしょう」
とのこと。
 その言葉に任せて瘤を切ってもらったところ、瘤の中から種々の魚の骨がおびただしく出てきた。
 驚いてわけを問うと、老人は言った。
「わしは若い頃から人一倍魚を好み、つねに骨のかけらも残さず食って、人に呆れられたものだよ。そんなことをしてきたから、体の中に魚の骨が積もり積もって、ついにこんな病気になったんだろうな」
 この道理も分かりかねる。
あやしい古典文学 No.509