『諸国百物語』巻之二「森の美作殿、屋敷の池に化けものすみし事」より

池に棲む化け物

 森美作守殿の屋敷の裏に、小さな池がある。
 その池の中から、嬰児が這い出すことがあった。
 また、かずき着た女が辺りを歩き回ることもあった。

 美作殿が近習の者を集めて夜話をされたときのこと。
 髪を垂らした女の二人連れが、座敷のまわりをあちらへ、またこちらへと歩く影が、壁に映ってたしかに見えた。
 美作殿は不思議に思い、侍どもに座敷内をくまなく探させたが、それらしい何者もいなかった。
 ただ影だけが、あちらへ、こちらへと歩くのが、人々みなの目に見えたのだった。

 それから一年ほどして、美作殿は死去なさったとのことだ。
あやしい古典文学 No.518