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『大和怪異記』巻六「幽霊来りて、妻をいざなふ事」より |
幽霊 妻をいざなう |
六兵衛という者が、妻子を残して死んだ。臨終の遺言に、 「わしの死骸を、裏の藪に葬れ」 と言ったので、その言葉どおり葬った。 死後七日目の夜から、六兵衛の幽霊が妻のもとに来るようになった。 初めのころこそ恐ろしかったが、やがて慣れて、生前と同じく床を共にして睦まじく過ごした。 そうして一年ばかり経ったとき、幽霊は、 「ここに来るのは今夜限り。さあ、今度はおまえがわしのほうに来るのだ」 と手を取った。 「いえ、子供もまだ幼いので、今そちらへ行っては、後のことが心配です」 と否む妻と、いざなう夫と、互いに手と手を引き合った末、 「どうしても厭か。ならば好きにせよ」 幽霊はそう言って帰った。 それより後、妻の手は、幽霊が掴んだところから傷みだした。 あれこれ治療を尽くしたけれども、その甲斐なく、腐り爛れて死んだという。 |
あやしい古典文学 No.537 |
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