兼好法師『徒然草』第二百三十段「五条内裏には」より

五条内裏の化け物

 五条内裏には化け物がいた。
 藤大納言殿の語られた話である。

 殿上人たちが黒戸の御所で碁を打っていたとき、御簾を掲げて見るものがあった。
「誰だ」
と振り向くと、狐が人のように膝をついて覗き込んでいるのだった。
「あっ、狐だ!」
と騒がれて、あたふたと逃げていった。
 術の未熟な狐が、化け損じたのであろう。
あやしい古典文学 No.541