『西播怪談実記』巻五「どうがめ瓜をぬすみし事」より

胡瓜泥棒

 享保年間のことである。
 姫路元塩町のある家に親しい人々が集って、碁を打って興じていた。
 家の裏には菜園があって、胡瓜などを作っていた。その下は姫路城の外堀で、岸が高い石垣になっていた。
 夜が更けて勝手も寝静まったころ、菜園のほうから、ガサリ、ガサリ、と音がする。
 碁を打っていた人々が、
「何か来たんだろうか。行ってみよう」
と、めいめい手燭や提灯をさげて見に行くと、大きな泥亀が沢山来ていた。聞こえたのは、亀が胡瓜棚に上り下りする音なのだった。
 人が灯をともして来たのに驚いて、亀どもは石垣の上から跳び、あるいは転げ落ちて、堀の中に逃げうせた。
 中には、胡瓜をとっている最中の亀で、咥えながら逃げたのもいたそうだ。

 これは、そのときに見に出たうちの一人が、後に作用の町に来て語った話である。
 思うに、世間で『瓜を食して川に行くな』というのも一理ある。こんな瓜好きが、川に棲んでいるからだ。
 『山繭で織った衣を着て船に乗るな』というのも、この類であろう。
あやしい古典文学 No.554