伴蒿蹊『閑田次筆』巻之四より

雷火に生鮒

 江戸でのこと。
 ある小侯が宿直番のとき、葛籠(つづら)を背負った下僕に落雷し、雷火が背と葛籠の間を突き抜けた。
 下僕は気絶し、体もかなり焼け焦げていたが、仲間の下僕が、
「おれが助けてやる」
と言って何処かへ走って行き、まもなく生きた鮒をとって戻った。
 鮒をそのまま焼けた背中に当て、ひたすら擦ると、黒い焦げ色が落ちるにしたがって、だんだんに息を吹き返したそうだ。

 これは本当の話で、その小侯自身がある人に語ったものである。
あやしい古典文学 No.560