『寛政紀聞』より

ねこ大集合

 寛政十年、小普請阿部大学支配 何某の家でのこと。
 庭の植え込みの中に接骨木(にわとこ)があったが、いつの頃からともなく、その木の周りに猫が集まってきた。
 どういうわけか分からないまま、日ごとに猫の数が増え、しまいには数万匹ともいうほどになった。

 猫どもは木に登り、あるいは木の下に寝そべり、思い思いに戯れ遊んで、追えども打てども去ろうとしない。
 主人は仕方なく、接骨木を伐り倒した。
 すると、木の幹はまったく空洞で、中に体長十五センチほどのナメクジがみっしり詰まっていた。
 伐り口からナメクジが夥しく溢れ出るのを見るやいなや、猫どもは一散に逃げ去ったという。

 じつに怪異な出来事だと、世間でもっぱらの噂だ。
あやしい古典文学 No.572