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『斉諧俗談』巻之一「星変人」より |
夏火星 |
『聖皇本紀』によれば、敏達天皇の九年のことである。 当時、土師連八島(はじのむらじやしま)という秀でた歌人がいたが、この八島の家に毎夜、見知らぬ人がどこからともなく来て、ともに歌をうたった。 その人の声は、この世の誰とも違う不思議な声だった。 八島は怪しんで、帰るときに跡をつけていくと、住吉の浜辺にいたって、そのまま海に入り消え失せた。 話を聞いた聖徳太子は、このように説明した。 「けい惑星だな。この星はたびたび地に降って人に姿を変え、嬰児の中に混じり、好んで歌をうたう。その歌で未来を予言するのだ」 また一説によると、八島はすばらしくよく通る美声の持ち主で、能・今様をうたった。 けい惑星はその歌に惹かれて、ともにうたったのである。 八島、 わが宿の甍にすめる声は誰そ たしかに名乗れ四方の草とも 星、 天の原南にすめる夏火星 豊里に問へ四方の草とも 「夏火星」とは、けい惑星のことであり、「豊里」とは、聖徳太子の別号である。 中国の『宋史』には、次のようにある。 永安二年、幼児が大勢群がり遊ぶ中から、突然ひとりの小児が進み出た。 「われは人にあらず。けい惑星なり」 こう叫ぶやいなや、天に翔け昇った、と。 |
あやしい古典文学 No.575 |
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