岡村良通『寓意草』下巻より

鼠が馬を喰う

 鼠が馬を喰うことがある。

 石黒但馬守の鹿毛の馬の爪を、鼠が喰った。左の前後の脚の爪を喰い尽くした。表面は喰わず、内側をまったく空洞にしていた。
 しまいには馬の頬を喰い破って、口の中に入り込んだ。
 どのようにしても、鼠の攻撃は止まなかった。その鼠を殺しても、また別の鼠が喰うのである。
 ついには馬を処分するにいたった。

 今度は栗毛の馬を飼ったが、また鼠が爪を喰った。
 この話を村田源右衛門という人が聞いて、「樒(しきみ)の青葉を揉んでつけるとよい」と教えた。
 やってみると、たしかに鼠が来なくなった。
 人が鼠に喰いつかれて病むことがあるが、それも樒の葉を揉んでつけると癒えるのだという。
あやしい古典文学 No.580