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佐藤成裕『中陵漫録』巻之一「海蜘蛛」より |
海蜘蛛 |
ある舟が、嵐に遭って南海に漂流するうち、見知らぬ小島を見つけて、近くまで漕ぎ寄せた。 すると突然、巨大な蜘蛛が海岸から馳せ来たって、白い綿状の粘りつくものを投げつけ、舟に絡めて引き寄せた。 太綱で引かれるような力に、舟の者はみな驚きながらも、腰刀を抜いて切り払い、からくも危地を脱することができたという。 筑紫の漁師の言い伝えである。 『香祖筆記』には、 「海蜘蛛は、奥海の島に棲んでいる。車輪のごとく巨大で、五色の文様がある。吐く糸は複雑に縺れ合って、はなはだ強靭だ。虎や豹でさえ、一度その糸に触れれば脱することができず、ついに死んで蜘蛛に食い尽くされる」 とある。 きっと、この海蜘蛛だったにちがいない。 |
あやしい古典文学 No.588 |
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