岡村良通『寓意草』下巻より

異形の蛇

 我が家の裏の石垣の近くに、たいそう怪しいものがあらわれた。
 体長一メートル半に及ぶ黄色い蛇が二匹。
 妻が打ち殺したが、二時間ほどしてから、二匹ともに四本の足が出てきた。鶏の脚に似て、ただし足先が丸く盛り上がっていた。
 かつて母方の従弟の下田師古が庭の池のほとりで見たのは、四十センチばかりの蛇だったが、やはり足が四本あった。
 蛇の足を見ると幸運に恵まれるというのは、嘘ではあるまいか。師古は早世したし、私は相変わらず浪々の身だ。
 ともあれ、画家が竜を描くときの玉を握っている形は、この丸く盛り上がった蛇の足先に因ったものだろう。

 ちなみに、両頭の蛇を見れば死ぬという話も嘘だ。
 常陸の国の八島というところへ行ったとき、与三という人と一緒に近くの山に登った。
 一メートルあまりの両頭蛇が木にまといついているのを見つけて、ただちに殺した。
 にもかかわらず、私はいまだ元気で生きている。
あやしい古典文学 No.590