岡村良通『寓意草』下巻より

龍を見たか

 潮来の里に、庄兵衛という男がいた。
 庄兵衛の家の庭に桃の木があったが、ある日見ると、小さい蛇がするすると登って、細く伸びた枝の先端まで行った。
 蛇は、梢に尾をわずかに巻きつけた形で竿のごとく直立すると、たちまち煙を吐き、風を巻いて、どこへ行ったのか見えなくなった。
 こういう蛇は、みな龍の化したものではなかろうか。

 尾張の国の漁師が、上総の海岸に立ち寄った際、貝のような石を一つ拾った。
 美しい石なので床の間に飾ったところ、その周囲がじめじめと湿ってきた。石をぬぐって棚に置き換えたら、今度は棚が湿った。
 不審に思ってよく調べると、針の先で突いたほどの穴があって、そこから湿気が出ているのだった。
 試しに、これを釜に入れて煮てみた。すると湿らなくなったので、『さては、虫かなにか入っていたのか…』と思い、打ち割った。
 石の中では、一寸ばかりの虫が死んでいた。蛇のような姿だが、足があった。
 これも龍ではないだろうか。
あやしい古典文学 No.591