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平秩東作『怪談老の杖』巻之二「狢童に化る」より |
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上総の田舎で、秋のころ、縄やむしろなどに使う藁を取った後の屑藁が、百姓家の庭先に敷いてあった。 この藁が柔らかで気持ちがいいものだから、そこらの子供が毎日集まって、でんぐり返りや宙返りを競って遊んでいた。 その日も、長太郎という子供が数人の友達と、いつものようにとんぼ返りをして夢中で遊んでいたのだが、中にひとり、着物を頭から被って顔を隠し、くるりくるりと、ひたすら宙返りを続ける子がいた。 初め、仲間うちの者だと思って気にも留めなかった子供たちも、いつまでも物を言わず、顔も見えないままなので、 「誰じゃ」「誰じゃ」 と口々にとがめた。 それでも何も言わない。ふざけてわざとしていると思って、被った袷(あわせ)の着物を剥ぎ取ろうとすると、 「キキッ!」 と叫んで離さない。袖から手を入れて腕を掴もうとしたら、毛がむくむくと生えていた。 「化けものだぁ」 子供の驚き騒ぐ声に、大人どもが棒など持って駆けつけた。 これを見て、袷を被ったまま近くの林の中に這い込むのを、 「それっ、逃がすな」 と追いかけると、ついには袷を打ち棄て、大きな狢(むじな)の姿を現して、まっしぐらに逃げていった。 後に長太郎は堀込あたりに奉公に出て、そのとき直接語った話である。実直で偽りを言うような者ではないから、事実に違いない。 |
あやしい古典文学 No.592 |
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