『江戸塵拾』巻之五「猫きつねを産」より

猫狐

 目黒大崎というところに、徳蔵寺という禅宗の寺院がある。
 この寺に数十年を経たぶち猫がいて、いつも近辺の山に行って遊んでいた。

 明和元年の春、猫は珍妙な子を産んだ。
 毛色は普通の猫のような白黒まだらだが、形は猫でなく狐である。
「この猫は、山で遊ぶうちに狐と交合したのだろう」
 人々はそう言い合った。
あやしい古典文学 No.603