『因幡怪談集』「百足を殺し其の頭に敵取らるる事」より

垣根の百足

 某屋敷が垣根を結い直すことになった。
 いつもの出入りの職人と家来とでやっているので、今回も職人を頼んで取りかかった。
 作業のさなか、五六寸もある百足(ムカデ)が出てきたのを家来が見つけて、
「でっかい百足だ」
と声をあげると、出入りの者は、
「殺しましょう」
と言いざま、小鎌でもって百足の首を刎ねた。
 家来は頭の行方を捜したが、どこへ行ったのか見当たらない。
「手間取ってもおられん。放っとこう」
 二人はまた仕事にかかって、垣根を結い終えた。

 翌年も、同じ出入りの職人を呼んで垣根を結わせた。
 かの百足を殺したあたりで、出入りの者の足の親指に何かが咬みついた。
 百足だった。竹の棒で押さえてよく見ると、頭は大きいが、首から下が不釣合いに小さく、二三寸しかなかった。
 そいつは念入りに殺したけれども、咬みつかれた箇所が激しく痛んだ。さまざまな薬をつけた甲斐もなく、次第に腫れ上がり、いよいよ痛みが増した。
 結局、職人は三十日ばかり患った末、痛みのせいで死んでしまった。思いがけない不運である。

 『百足を殺すときは、必ず頭を叩き潰せ』という。
 蝮(マムシ)など、他の害虫もすべて、頭を潰すものだそうだ。
あやしい古典文学 No.627