津村淙庵『譚海』巻之六より

海を歩く人

 淡路国に、松平阿波守殿の家来分で、森五郎兵衛という公儀人がいる。
 この人は、海上を平地のごとく歩行する。家に伝わる不思議な能力で、代々の当主はみな海を歩けた。
 どんな暴風雨でも、渡海する途中で覆没する心配はないそうだ。

 また、長門毛利家の家中、村上掃部の家では、浮沓(うきぐつ)というものを伝えている。
 毎年元旦、掃部はその沓をはき、長門を発して隠岐の国まで海路を往復する。
 しかる後、元日の朝飯を祝うとのことだ。
あやしい古典文学 No.630