森春樹『蓬生譚』より

連結幽霊

 同じ化けるといっても、狸は狐と違って、どことなく滑稽なものである。

 三年前、求来里村で、さとという名の者が死んだ。
 その夜からさとの幽霊が出て色々なことを言い、それが四夜、五夜と続いた。
 村の若者どもが怪しんで、打ち寄って相談のうえ、「幽霊を退治しよう」と鉄砲などを用意し、犬を連れて幽霊が出るのを待った。
 いつものように幽霊が現れたので、まず犬をけしかけると、幽霊は慌てて逃げ出した。
 しかし、たちまち追いつめられて進退窮まり、そこらの柿の木に登ろうとするところを、犬が飛びかかって喰いついた。
 幽霊は胴の半ばで二つに千切れて、上半身は木に登り、下半身は犬に喰い伏せられた。
 木の上に逃れた半分の幽霊は、鉄砲で撃ち落した。見れば狸であった。
 犬に喰われた半分も、これまた狸。二匹の狸がつながって人の形を成していたのである。

 狸が人に化けるときは、いつもこのようにするそうだ。
あやしい古典文学 No.637