阿部正信『駿国雑志』巻之二十四上「奇児現橋上」より

渡り初め

 駿河国庵原郡江尻宿の巴川には、ずっと橋がなかったが、神君家康公の命で初めて橋が架けられた。
 旧例に倣って、極老の夫婦による渡り初め式を執り行おうとした矢先のことだった。
 だしぬけに水中から変な子供のようなものが出現して、橋に上り、すたすたと府中の方に向けて歩み去った。
 この事件によって、橋は「児橋(ちごばし)」と名づけられたそうだ。

 子供は河童の類だろうかと思われる。
あやしい古典文学 No.640