『諸国百物語』巻之四「牡丹堂、女の執心の事」より

牡丹堂

 中国に、牡丹堂というところがある。
 人が死ぬと棺に入れ、その棺のまわりに牡丹の花を描き、牡丹堂へ持っていって積み重ねておくのである。

 ある男が妻に先立たれ、悲しみのあまり、夜な夜な亡骸のある牡丹堂へ行って念仏を唱えた。
 それがもう久しく続いたある夜、若い女が首に鉦をかけて念仏しながら来るのに出会った。不思議に思って、
「女の身で、どうしてこんな場所においでになるのか」
と尋ねると、女が応えて言うには、
「夫と死別し、今はこのように……」
 それはさぞ辛かろうと、男はわが心に重ねて涙を流し、それより毎夜、二人連れ立ってあちこちの墓地を念仏して歩くようになった。
 いつしか深い仲になり、女が男の家に来て、夜に酒盛りなどして遊んだが、それを隣の者がふと覗き見ると、なんと、女の髑髏と酒を酌み交わしているのだった。
 夜が明けて、隣人から見たままを聞いて驚いた男は、半信半疑で日の暮れるのを待った。やって来た女を正気の目で見ると、まったく髑髏だった。
 それからは恐怖に堪えかね、ひたすら物忌みをして引きこもり暮らした。

 三年が過ぎた。
 もうよかろうと思ったのだろうか、男は気晴らしに、小鳥を獲りに出かけた。
 一羽の雀を追っていくと、雀は牡丹堂へ逃げ込む。堂の前まで追っていくと見えたのを最後に、男の姿がふっと消えた。
 従者たちが訝しく思って堂に入り、重なっている棺を調べると、中にひとつ、血のついたものがあった。
 棺を開けると、女の髑髏が、男の首を咥えて座っていた。
 三年過ぎても、執心はいささかも衰えず、ついに男をとり殺したのである。
あやしい古典文学 No.645