津村淙庵『譚海』巻之十二より

貧乏神の教え

 私の叔父が壮年のころ、昼寝の夢に、破れ衣をまとった乞食のごとき老人が座敷に入ってきて、そのまま二階に上がるのを見た。
 その日以来、何につけても金がなくて、情けない日々を過ごした。

 四年を経て、また昼寝の夢で、先年に二階へ上がった老人が座敷に下りてきて、暇を乞うた。立ち去りぎわに言うことには、
「わしは貧乏神じゃ。四年前この家へ来て、今出ていくのじゃが、わしが出たあと、焼き飯に焼き味噌を少しこしらえなされ。それを折敷に載せて裏の戸口から持って出て、近くの川へ流すとよい。ああ、それから、今後は決して焼き味噌をこしらえてはならぬ。貧乏神は、焼き味噌が大好物じゃ。かといって生味噌を食うのはもっと悪いぞ。味噌を焼く火の気さえないと知れるからな」

 夢から醒めて、貧乏神の教えの通りに焼き飯・焼き味噌を川へ流した。
 それより後、叔父はさほど金に困らなくなった。不思議なことだと話している。
あやしい古典文学 No.648