中川延良『楽郊紀聞』巻九より

おろち・ほら貝

 三原(みはる)という山がある。
 ある百姓が、この山中で何ものかの鼾(いびき)を聞いた。
 音のする方角へ向かうと、蛇の首が八つ集まって眠っていた。それが一斉に鼾をかいていたのだった。
 よく見ると、蛇の胴は五合鉢ほどの太いのが一つだけで、そこから八つに分かれて、それぞれ頭があった。
 恐ろしくて早々に逃げ去ったと、その百姓が語ったそうだ。

 同じ山で、ほら貝が殻から出て這い歩くのを見た百姓がいる。
 ほら貝は、およそ三抱えもあろうかという大きなものだった。
 人の足音を聞いてすぐ殻の中へ引っ込んだが、しばらくして静かになると、また出てきた。
 足が三本あって、殻を曳いていった。ゴトゴトと音させながら、坂のようなところを下っていった。
 これも恐ろしさゆえ、見ぬふりをして済ましたのだそうだ。
あやしい古典文学 No.657