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森春樹『蓬生談』巻之九「むかでが耳に入りし人の事」より |
耳にムカデが入った人 |
肥前諫早の近在のことと聞く。 昼寝していた人の耳に小さなムカデが這い込んで、出てこなくなった。 それからというもの、常に耳の奥が痛み、やがて頭の骨まで痛みだしたので、さまざまな薬汁を入れて療治したが、ムカデは出ず痛みも去らず、二十数年間苦しみ続けて死を迎えた。 その人は死の間際、子供たちに、 「わしが死んだら、頭をかち割ってムカデを探せ。見つけたら殺せ。おまえたちにとって、ヤツは父の仇だぞ」 と固く言い残した。 三人の子は、どうしたものかと相談したが、父の遺言とあれば是非もない。頭を割って調べてみると、耳に入ったときは僅か一寸ばかりだったのが、八九寸の大ムカデに成長し、頭蓋を食い荒らして、中に蟠っていた。 三人はそれを、なぶり殺しにしたという。 この話の真偽は、どうなのだろう。 頭骨を食われながら存命していけるとは、とても思えないのだが。 |
あやしい古典文学 No.680 |
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