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森春樹『蓬生談』巻之二「いづくにても大火の時火の上に飛ぶ白鳥は天狗成るべしと云事」より |
大火の白鳥 |
京都の人の話によると、天明の大火のとき、昼夜とも、燃え盛る炎の上に鳩ほどの大きさの白い鳥が数知れず群れて、煙の中を飛び交っていたそうだ。火勢の盛んなところほど多く見えたという。 江戸の人に聞くと、江戸では火災のときは常にこの鳥がいるそうだ。しかも、火を咥えて飛ぶのだという。 さて十数年前、筆者の住む日田の隈町の六七分が焼けた大火の際、筆者もその鳥を初めて見た。 火が出てまもなくのとき、北の方角から飛来して、日隈山の上空を低く飛び、いったん西のほうを回ってから、東の火の手へと向かった。 大きさは雁くらいで、姿も雁に似ているが、色は真白い。七羽で連れ立っていたが、あとで別のところから見たら数がもっと増えて、盛んに燃える火の上を飛んでいた。 炎の色を映して少し赤くも、灰色のようにも見えた。しかし最初、火がいまだ近くない空で、遠い火災の火に明らむ中で見たのは、まさしく真白い鳥である。 このときよりももっと多くの鳥が、さらに八年前の火災では見られたというが、そのころ筆者は玖珠郡にいて、実見していない。 この鳥は、ふだん何処にいるのだろう。それを見た人はいない。 火災となれば、ただちにやって来る。夜が明けるまで飛びまわって、明けてしまうと見えない。もっとも京都や江戸では、昼間も見えたという話だ。 この鳥は天狗だという説がある。そうかもしれない。 尋常の鳥なら、どこかに棲み処があるはずだ。なのにふだんはどこにも見かけないというのは、天狗だからかもしれない。 |
あやしい古典文学 No.683 |
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