林羅山『怪談全書』巻之一「望帝」より

望帝

 鼈令(べつれい)は、もとは荊国の人である。
 死んでのち屍が流れゆき、江水に浮かぶと、また人となり、蜀の国へ行って王にまみえた。
 蜀王 望帝は、鼈令が常人でないのを見て、これを宰相とし、やがて王位も譲って逃れ去った。

 放浪の地で望帝は死に、化して杜鵑(ホトトギス)になった。
 杜鵑が子を産むと、諸々の鳥がみなその子の世話をする。それは、鳥たちが「昔の蜀王の魂だよ」といって敬い憐れむからだ。
 また、杜鵑が自分の卵をほかの鳥の巣に入れて、世話をさせるのだともいう。

 これらは、『蜀王本記』という書物に書かれてる。
 わが国の歌に、「ウグイスのかいこの中のホトトギス」と詠まれているのも、このことなのだろうか。
あやしい古典文学 No.685