森春樹『蓬生談』巻之四「蛇を呑みたる鯉の事」より

鯉の餌食

 大きな鱒が蛇を食い、鱸(すずき)が蛇を追い回すことは、すでに人に知られている。

 鯉が蛇を食うこともある。
 筆者が少年のとき、関村から日雇い稼ぎに来ていた者が、
「このあいだ、夜分に網を打って川魚をとっていたら、かがり火に驚いたのか、希代の大鯉が自分から舟に飛び込んできた。そいつは人に売ったんだが、その人が料理しようと腹を裂いたら、三尺ばかりの蛇の死んだのが出てきた。気持ちが悪くなって、食わずに捨てたそうだよ。そういえば、あの鯉の腹はだいぶ膨れていたなあ」
と話していた。
あやしい古典文学 No.690