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森春樹『蓬生談』巻之四「北国廻船に猩々ともいふべきもの乗りし事」より |
海の猩々 |
北前船の船頭の話として聞くところでは、ある夜、沖合いに船を停泊させて乗組員一同眠りに就いたとき、船室の入口から猿のような獣が入ってきて、しばらく辺りを徘徊したそうだ。 まだ目覚めていた二人の者が、横になったまま様子を見ていたが、その獣は頻りに咳をして、しまいに何かを吐き出すと、外へ出て海へ飛び込んだ。 翌朝見れば、吐いたのは血で、床にあった手拭にも血がかかっていた。血の色はあまりに鮮やかで、いくら洗っても落ちなかった。 「その赤さは猩々緋の色と同じだった。もしやあの獣は『猩々』というものではなかったか」 と、その船頭は語ったという。 中国の詩を参照するに、蜀地方の詩に「猩々啼樹」とある。しかし、この「猩々」は山中の獣であろう。 |
あやしい古典文学 No.694 |
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