森春樹『蓬生談』巻之三「河伯女に通して子を産ましむる事」より

河童 女に通ず

 河童は陰獣で、よく人間の女に通じて子を産ませる。
 『子は母体を出るやいなや、たちまち床下などに飛び込んで姿をくらますので、どんなものなのか見定めることが出来ない。一度の妊娠で三四匹、あるいは五六匹を産む』などと昔から言われているが、確かな話かどうか分からないでいた。

 先年 岡に赴いた際、古田家老の閑居を訪ね、二三日泊まって語り合った。
 話が河童のことに及んで、女に通じることについて不分明に思う点を述べると、古田家老は次のように語った。
「わが杣谷の屋敷で、河童が下女に通じて妊娠させたことがあった。その女にことの次第をくわしく質したところ、最初は夜に猫が来て、寝ている女の懐に入ったのだそうだ。猫のことだからと追いたてもせずに二夜、三夜と過ごすうち、夢うつつの寝床の中に美男子がいて、それに犯された。それから毎夜同じことが続いて、妊娠が知れたときには半年ばかりを経ていた。そのとき女は鬱症のような乱心のようなありさまで煩っていたから、とにかく里へ帰したのだが、やがて子を産むと平生に恢復したので、また屋敷に戻って勤めている。
 子が産まれるときの様子も話してくれた。そのほうがかねて聞き及んでいる通りのことを言っていたよ」
あやしい古典文学 No.695