『南路志』巻三十七より

空飛ぶ蛇

 土佐国香美郡山田郷の平草峯は、麓に下れば民家もあって、さして深山というわけではない。しかしこの山には、「山通」というものが棲んでいる。

 山通は、ふだんは体長五十センチ足らずの小蛇だけれども、時として空を飛ぶ。
 大風・大浪の襲うような轟音とともに飛行して、これに当たれば樹木はひとたまりもなく倒れ、岩石もたちまち崩壊する。勢いの激しさは何ものにも喩えようがない。
 空から降りるときは、うって変わってさえない。一メートルほどの長さになっているが、まるで勢いなくヘロヘロと落ちてくるのを見た者がいるそうだ。
あやしい古典文学 No.697