西野正府『享保日記』より

うなぎ龍

 享保三年二月十三日、鹿島神宮へ家僕惣吉を代参に遣わした。
 夜中に出立した惣吉が夜明け方に夏海ノ台から海面を眺めると、炎が燃え立つように数メートルの光が上るのが、二度見えた。
 惣吉はじめ道連れの者一同は、『これぞ龍燈というものか』と思って拝んだという。

 十四日に飯島村に着くと、昼過ぎに海面を黒雲が覆って真っ暗になった。
 縦横に稲妻が走り雷鳴して凄まじい様子のなか、黒雲の間からねずみ色の、長さ八メートル余の鰻みたいなものが見えて、海へふらふらと垂れ下がるようだった。
 『龍かもしれない』と、一同の者は言い合ったそうだ。

 ちなみに惣吉の道連れは、わが屋敷内の孫三郎、三丁目の喜惣次、江戸町の八郎次と権七といった面々である。
あやしい古典文学 No.706