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平秩東作『怪談老の杖』巻之二「くらやみ坂の怪」より |
くらやみ坂 |
江戸市中、くらやみ坂の上にある武家屋敷でのこと。 あるとき屋敷内の土が二三間の幅で下の崖に崩れ落ち、その跡から石の唐櫃が出てきた。 人を葬った石棺であるらしく、中に矢の根の腐り固まったようなものや白骨などがあったが、そのまま横のほうに埋めておいた。 後日、棺の出た場所近くの井戸のかたわらで、行水をしていた下女二人が、なんということなく気を失って倒れた。 見つけた人々の介抱で気がつき、 「二人とも気を失うとは、どういうわけだ」 と問われると、口をそろえてこたえた。 「わたくしどもが湯を浴びておりましたら、あの柳の木の陰から、色白の綺麗な男が美しく装って現れました。近寄ってくるので怖くなって、人を呼ぼうとしたのですが、……あとは覚えていません」 さらに後日、主人の祖母で七十余歳の老女が、屋敷の隅で草を摘もうと外へ出て、それきり戻らなかった。 「おばば様の姿が見えない」 と騒いで捜しまわったところ、蔵の裏手で倒れて死んでいた。 ほかにも怪しいことが続いたので、祈祷などいろいろして、そのせいで近頃は無事なのか、これといった噂はない。 |
あやしい古典文学 No.709 |
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