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神谷養勇軒『新著聞集』第十「古狼婦となりて子孫毛を被る」より |
狼梯 |
むかし、越前ノ国大野郡菖蒲池のあたりで、しきりに狼の群が出没し、日が暮れると人の通いが絶えるということがあった。 ある僧が、菖蒲池の孫右衛門の家を訪ねて行くとき、思いのほか早く狼が出て、道を進むことができず、大木に登って難を避け、一夜を明かそうとした。 狼どもは木の下に集まって、僧を見上げた。 「菖蒲池の孫右衛門の嬶(かか)に来てもらおう」 一頭の狼が言うと、 「おお、そうだ。それがよい」 他の狼も応じて、呼びに行ったらしかった。 まもなく、いちだんと大きな狼がやって来た。 大狼は、樹上を見上げつつひとしきり考えていたが、やがて、 「あそこまで、わしを肩車して上げろ」 と言った。 よしきた、とばかりに狼どもは寄り合った。次々と股に首を差し入れ、大狼を次第に高く上げていく。 すぐ近くまで迫った大狼に、僧は身が縮み、心も消え入るばかりだったが、必死に護身の小刀をふるい、獣の眉間に打ち込んだ。 その瞬間、狼の梯子は崩れ落ちて、みな散り散りに逃げ去った。 ようやく夜が明けて、僧が孫右衛門の家にたどり着くと、 「昨夜、妻が急死して……」 と騒いでいる。死骸を見れば、大きな狼であった。 孫右衛門夫妻の子孫は、当代にいたるまで、背筋に狼の毛がびっしり生えているという。 また土佐にも、「岡崎が浜の鍛冶が嬶」という、これとそっくりな話が伝わっているそうだ。 |
あやしい古典文学 No.721 |
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