山口幸充『嘉良喜随筆』巻四より

南都の怪

 寛文十二年九月初め、奈良の今厨子というところの一角が、夜ごとに怪しく光った。
 その光のもとを追って地面を一メートルあまり掘ると、髑髏の大きさの少し平たい物体があった。ひどい臭いがして、どうにも堪らない代物だった。
 これを捨ててしまうと、光もなくなった。

 また、春日大社の一ノ鳥居あたりに、夜になると身の丈二メートルを超す人のようなものが出没した。
 髪を長く垂らした姿で、人を蹴飛ばしては、追われて逃げる。
 これは、野馬が歳を経て化物となったのではないかという話だ。
 珍しい事件である。
あやしい古典文学 No.723