『続怪談録』「某士、道祖崎の瀬にて赤子を釣上る話」より

イダ釣り

 岩国錦見の何某が、ある夜、道祖崎(さえざき)の瀬に舟をとめて、イダを釣っていた。
 不意に手ごたえがあって、大イダがかかったものと喜んで引き上げてみたら、魚ではなく、人の赤子だった。

 昔から、私生児を宿したときには堕胎して、薦(こも)につつみ、川の瀬に流すことが行われてきた。
 この赤子もそれだと思われ、『ああ厭だ、滅入るなあ』と糸を引き切って棄てると、その場所を去って川上へ向かい、吸江(りゅうこう)の上に至った。
 ここなら安心と舟を止めて釣り始めたが、イダかと思って釣り上げてみると、また赤子だった。
 これには大いに恐怖をなし、釣具を棄ててただちに家に帰ったそうだ。
あやしい古典文学 No.743