『岩邑怪談録』「長氏、変化の者と手打する事」より

手打ち遊び

 長何某という剛強の士がいた。
 ある夜、置き縁で独り涼んでいると、風の音さわさわとして何となく物凄く、どこからともなく大坊主が来て、
「手打ちをして遊ぼう」
と言う。
「よし、やろう」
と始めたものの、相手はじつに巧者で、長氏はさんざんに負かされた。
「また明日の晩も来るよ」
 大坊主は上機嫌で帰っていった。

 翌晩またまた来たとき、長氏は将棋盤を置いて待っていた。
 盤の上に出した大坊主の手を、用意の金槌でしたたかに叩くと、
「わっ」
と叫んで消え失せた。
あやしい古典文学 No.753