森春樹『蓬生談』巻之四「蛇の鼈に成る事」より

脱皮する人

 蛇が鼈(すっぽん)となることは、医家 香月牛山の著書にもあるが、これより記すこともまた事実談である。

 羽野村の百姓が、朝、山へ草刈に行って、叢の中で甲羅の直径一尺ばかりの鼈を捕まえた。
 家に持ち帰り、煮て食ったところ、発熱して気分が悪くなったため、豆田町の向野元愧という医者にかかった。
 医者の出した薬でいちおう癒えたが、三十日ほど後に、全身の皮膚がすっぽり脱けた。まるで蛇の脱皮のようだった。

 翌年の同じころ病気が再発して、また元愧の薬で癒えた。その後も毎年、同じ時期に病気が起こるという。
 問題の鼈がいた場所は、川や池からずいぶん離れており、鼈が産卵に来るような場所ではない。
 蛇の化したものに間違いなかろう。
あやしい古典文学 No.769