『聖城怪談録』上「関町半兵衛人焼場にて怪事に逢ふ事」より

火の中の声

 関町半兵衛という人が、ある夜、敷地村の火葬場を通りかかったとき、焼き場にちろちろ火の燃えるのが見えた。
 きっと近ごろ火葬になった人のものだろうと思って近寄ると、火の中から女の声がした。
「ねえ、わたしは敷地村の名主の娘なの……」
 半兵衛はぎょっとして、その場を足早に立ち去った。

 あまりの不思議さに、名主の家に立ち寄って様子を聞くと、はたして、娘が死んで、その日の昼に荼毘(だび)に付したというのだった。
あやしい古典文学 No.772