『一休関東咄』上「ばけ物、御たいじの事」より

一休の化物退治

 片田舎の古い神社に大きな石灯籠があって、毎晩灯明をともすと、どこからともなく大坊主が現れて、灯籠をぐるぐると巡り走るのだった。
 この怪異を見ない人はなく、恐れない者もなかったが、よそ目にそっと見るばかりで、正体を見届けることはなかった。
 一休和尚が話を聞いて、
「拙僧が今夜、そいつを退治してやろう」
と言ったから、土地の人々はたいそう喜んだ。

 化物退治の様子を見ようと、皆が日の暮れるのを待ちかねて神社へ行くと、その夜も大坊主が出て、風車のごとく灯籠の周りを疾走した。
「和尚は退治するとおっしゃったが、いっこうに気配がないぜ」
「ああ、全然だな」
 いろいろ言い合っているところへ、また一人坊主が出てきて、その夜は二人がかりで灯籠を巡った。
 夜が更けるにしたがい、きりのないのに飽きた人々は、三々五々自宅へ帰った。

 翌日、人々は一休和尚の宿所へ押しかけた。
「まるで話が違いますよ。ゆうべも化物が出て、いつもどおり灯籠を巡りました。それどころか、もう一人出て、二人で走り回ったじゃありませんか」
 口々に罵ると、一休は落ち着き払って、
「あとから出たのは拙僧じゃよ。夜通し化物を追いかけ、明け方ついに捉えて踏み倒し、『今後絶対に出ることならぬ』と何度も厳しく言い聞かせた。これで大丈夫だろう」
と応えた。
 人々は、そうだったのかと手を打って感心したが、はたしてその夜行ってみると、もう化物は出てこなかった。
あやしい古典文学 No.776