『聖城怪談録』下「竹内半左衛門鳥打坂にて怪異を見る事」より

足が来る

 竹内半左衛門という人が、あるとき、鳥打坂の山道を通りかかって、向こうから奇妙なものが来るのを見た。
 人のかたちはなくて、足だけが宙をふらふらと歩んでいる。
 不思議に思って行方を見送るうち、足はやがて一つの谷間に入っていった。

 まもなく、四五人の者が鉦鼓など打ち鳴らし、いかにも人捜しの様子でやって来た。
「もし、お侍さま。途中でしかじかの人には逢われませんでしたか」
 半左衛門が、
「いや、人には逢わなかったが、たった今、足が通った。あの谷に入ったぞ。足だけだからなんとも言えぬが、若い人かもしれない」
と言うので、人々は行ってみた。
 はたして、尋ね人は谷底で、ずたずたに引き裂かれて死んでいたという。
あやしい古典文学 No.777