森春樹『蓬生談』巻之二「俗にいふふぢ身稀には有る事」より

不死身の骸

 筆者が少年のときの手習いの師匠は、もと久留米藩士で、のち浪人した人である。

 師匠は、久留米にいたころ、斬罪人の死骸で刀の試し斬りをする機会をもった。
 何人もの人と代わる代わる試したが、なかなか斬れない。肉はやっとのことで斬れたが、骨はまるで駄目だった。二度三度と続けざまに刃を打ちつけても、いっこう斬れもせず、ただ当たった部分の骨が少し崩れて剥がれ落ちた。
 その壊れ目を見るに、骨の芯が紫がかって、蘇木の汁で染めたみたいになっていた。
「これが言うところの『不死身』にちがいない」
と、人々は評した。
 斬罪人は「日田無宿何某」と呼ばれ、詳しい生まれ村などは分からなかったそうだ。
あやしい古典文学 No.786