『続古事談』第一より

金百両投げ散らし

 後一条天皇がまだ幼少の皇太子であったころ、守り役の大納言 藤原道綱が御前に伺候して申し上げた。
「百両の金を投げ散らしたのを、ご覧になったことがありますか。たいへん結構な見ものでございますよ」
「見たことがない。どんなものか」
「まことに面白いものです。ご覧になるとよいでしょう」
 道綱は下役の者に、
「納殿(おさめどの)の砂金百両をお持ちしろ」
と命じた。

 届けられた砂金の袋を引き開けて、御前に投げ散らしたが、皇太子はがっかりした様子だった。
「どこが面白いのだ。全然つまらない」
「あ、そうですか。残念。では、こんなものは捨てましょう」
 道綱は、砂金を回収してふところに入れると、そのまま退出したという。
あやしい古典文学 No.787