津村淙庵『譚海』巻之十より

墓石の怪

 越後蒲原郡の某村近くの寺には、昔から引き続く怪事がある。

 寺の住職の死期が迫ると、近くの川辺に、誰が持ってきたというのでもなく、墓石が一つ出現する。
 それを「無縫塔」と言いならわし、この墓石が現れると、一二年のうちに必ず住職が死ぬのだ。
 もっとも、どうしても死にたくないと思う住職は、寺から逃亡すればよい。そうすれば災いを免れるそうだ。
あやしい古典文学 No.791